九州大学大学院理学研究院生物科学部門
岩見真吾 |
時代の流れ、社会の要請も相まって、現在、数理生物学を筆頭にした数理科学は最も注目されている研究分野の1つである。ただし“世間に期待されている数理科学”はいわゆる理論が中心となっている古典的な数理科学ではないし、大規模な生命科学データを解析するのみの情報科学でもない。数理モデル、コンピュータシミュレーション、統計解析が高度な次元で融合されたデータドリブン型・データ解析型の数理科学である。特に、バイオインフォマティクス解析、シングルセル解析、ハイスループットスクリーニング解析、次世代シークエンス解析、マルチオミックス解析など、時代を象徴する最新技術との融合研究が求められている。例えば、数理モデル型の定量的データ解析アプローチを駆使した分析では、薬剤治療効果の増強や服薬アドヒアランスの不確実性を考慮した薬剤耐性マネージメントはもちろんのこと、費用対効果などの医療経済学的指標も含めて、どの薬剤組み合わせを選択してどのように投与すれば最も有益な治療効果を得られるのか等を明らかにすることは理論的に可能である。私達の“システムを理解する”という観点から得られた全く新しい研究成果は治療ガイドラインの作成支援や治療戦略の見直し、矛盾するデータの統合的理解等、臨床医学のために活用すべきである。本シンポジウムでは、疾患を“システム”として理解する『システム疾患学』という新たな分野を展開するために、数理科学と臨床医学が真の意味で融合されている研究を紹介する。
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